いやぁーおどろいた。まさか2000年が"サンタナ・イヤー"になるとは…。
昨年末よりアルバム『スーパーナチュラル』、シングル「スムース」が驚異的なチャート・アクションで"華麗なる復活"を遂げていた事はいろいろと取り上げられていたが、あのマイケル・ジャクソンの記録を破る"グラミー賞9部門制覇"という偉業を達成するとは誰が予想したであろうか。無理もないであろう。サンタナの全盛期は1970年代なのだから。
デビュー当初からいきなり"ラテン・ロックの王者"として絶賛されてきた彼ら(通常"サンタナ"とはカルロス・サンタナ個人よりもグループを指すことが多い)も、30年間にわたる活動の中ではさまざまな苦悩があったであろう。デビューから現在までの流れを振り返ってみたい。
1947年メキシコのオウトラン・ド・ナヴァロという町で生まれたカルロス・サンタナは、ヴァイオリニストであった父の影響を強く受け、幼少の頃よりさまざまな音楽を耳にするようになる。
60年代前半、一家はサンフランシスコに移住、英米で巻き起こっていた"ブルース・ロック・ブーム"に触発されてか66年にはのちに"ジャーニー"を結成するグレッグ・ローリーらと"サンタナ・ブルース・バンド"を結成、フィルモアを拠点として活動を始めた。
当時はブルース・ロックと共にいわゆる"サイケデリック・ロック"も台頭してきたが、メキシコ生まれのカルロス・サンタナにとっては今ひとつ馴染めなかったようである。加えて、ブルースをメインという方向性にもややズレが生じてきたのか、フィルモアのオーナーであるビル・グラハムによって新たな方向づけが行われた。
それは、カルロスが生来持っているラテンの血を自然な形で生かし、それをロックと融合させる…いわゆる"ラテン・ロック"の誕生である。
方向性が固まり、グループ名も"サンタナ"として再スタートを切った彼らは69年にコロンビア・レーベルと契約、デビュー・アルバム『サンタナ』は全米トップ5に入る大ヒットとなった。さらにこの年「ウッドストック・フェスティバル」で圧倒的なライヴ・パフォーマンスを披露したことも彼らをトップ・バンドへと押し上げた大きな要因であろう。
70年発表の次作『天の守護神』では"これぞラテン・ロック!"という名演を存分に聴かせてくれ、シングル・カットされた「ブラック・マジック・ウーマン〜ジプシー・クィーン」「僕のリズムを聴いとくれ」も大ヒット、アルバムに至っては6週連続全米No.1という超ベスト・セラーとなる。
翌年発表のサード・アルバム『サンタナV』はギターにニール・ショーン(のちにグレッグ・ローリーと"ジャーニー"を結成)を迎えさらにパワー・アップ、5週連続全米No.1を獲得する。このペースで"ラテン・ロックの王者"は更なる飛躍をして行くと誰しもが感じていたが、72年発表の『キャラバンサライ』から少しづつ変化が見られてきた。ジャズとの融合、精神世界へのアプローチが作品の中にはっきりと現れてきたのである。
今回紹介する『ウェルカム』もその流れを汲んで完成した作品であるが、当時チック・コリア、ハービー・ハンコックらによって巻き起こされた"クロスオーバー(のちのフュージョン)・ブーム"の影響を色濃く受けている。現にアイアート・モレイラ、フローラ・プリムといったチック・コリアのリターン・トゥ・フォーエヴァーのメンバーも参加しているのである。
本作はラテン、ロック、ジャズのエッセンスがほどよくブレンドされ、大変聴きやすいサウンドとなっている。それゆえファンからの評判、セールスともいまひとつであったが、見方を変えて"クロスオーバー黎明期の名盤"として捉えると大変優れた作品であると思う。
ジャケットも前作までは濃く、にぎやかなアートワークが目立っていたが、本作では白地に『Welcome』とシンプルな構成になっており、新たな第一歩を踏み出そうという決意がありありとうかがえる。
しかし、セールス面での低迷、一部ファンの酷評もあってサンタナの歴史の中では大変地味な一枚となってしまった。ゆえにアメリカではなかなかCD化されず、93年になってようやく日本で"世界初CD化"としてリリースされたほどである。そのせいか以後『ウェルカム』のようなアプローチの作品にお目にかかれないのは残念である。
74年に『不死蝶』を発表した後は、シングル・ヒット狙いと思われる作品が徐々に多くなる。なかでも76年発表の『アミーゴ』よりシングル・カットされた「哀愁のヨーロッパ」は日本でもトップ50に長期間チャート・インする大ヒットとなった。
その後も『ムーンフラワー』(77年発表)より「シーズ・ノット・ゼア」、『シャンゴ』(82年発表)より「ホールド・オン」などシングル・ヒットは続いたが、83年にソロ・アルバム『ハバナ・ムーン』を発表してからは音楽的にやや迷走している感が80年代終盤まで続いた。セールス的にもかつてのパワーはなくなり、私も含めてデビュー当初からのファンは寂しさを感ぜずにはいられなかった。
90年代に入り、カルロス・サンタナにとって大きな転機がおとずれた。師と仰いでいたビル・グラハムとマイルス・デイヴィスが91年に相次いで亡くなったのである。彼はその遺志を受け継ぐかのようなスピリチュアルな力作『ミラグロ』を92年に発表する。非常に内容の"濃い"アルバムで評論家筋には大絶賛されたが、ファンにとっては作品の持つ精神世界の"重さ"が負担となり思うようなセールスを上げることが出来なかった。カルロスが神の世界にまた一歩近づいたようで、さらにファンとの距離を広げてしまったのだ。どこまで遠くに行ってしまうのか……。
しかし…である。そのサンタナが7年ぶりのオリジナル・アルバム『スーパーナチュラル』を引っさげてわれわれのところに戻ってきたのである。グラミー賞9部門制覇、さらには来日公演という"オマケ"まで付けて…。
「ブラック・マジック・ウーマン」の大ヒットから30年、ますますエネルギィッシュな活動を始めたサンタナ…その過渡期にあった"隠れた名盤"『ウェルカム』…ぜひ一度針をおとしていただきたい。苦悩の中の"ひとすじの光"が見えてくるはずである。
(中野 亮)