ナッキーのこれだけは聴こう!

Jeff Beck



 "三大ロック・ギタリスト"…最近あまり聞かれなくなってしまった呼称である。20代のロック・ファンにこの件をを問うとほとんど明確な答えは返って来ず、「知らないの?クラプトン、ベック、ペイジだよ!」と言おうものなら、「あ、エリック・クラプトンと"ベック"は知ってる。でも"ベック"ってそんなギタリストとして有名なの?」と言われる始末。 ああ完全にジェフ・ベックを「ルーザー」で有名なマルチプレイヤー"BECK"と勘違いしている(これ実話です)。
 このコーナーをご覧のかたは大半おわかりだと思うが、正解はエリック・クラプトン、 ジェフ・ベック、ジミー・ペイジである。
 この3人が上記の如く呼ばれる所以は、伝説のブリティッシュ・ブルース&ロックンロール・バンド"ヤードバース"に順次在籍していたからである。はじめに在籍したクラプトンが脱退する時、後釜としてぺイジにまず声をかけたというが、セッション・ギタリストとして多忙を極めていたペイジは誘いに乗らずベックを推薦した。これがヤートバーズのみならず欧米のロック・シーンに新しい方向づけをしていくのである。
 ジミー・ペイジについてはバック・ナンバーの『レッド・ツェッペリン』を参照していただき、数多くの紹介記事が出ているクラプトンについてはまたの機会に譲るとして、今回はジェフ・ベックにスポットを当ててみたい。

 ジェフ・ベックは1944年6月、ロンドンの南に位置するサレー州の生まれ。50年代後半〜60年代前半にかけてはイギリスの若者の間でもブルースが静かなブームになっており、彼もその例にもれずマディー・ウォーターズらに触発されてギターを始める。
 アートスクール在籍時にいくつかのバンドでプレイし、65年3月、ブルースからポップ路線への変更に嫌気がさして脱退したクラプトンにかわってヤードバーズに加入する。
 当時のヤードバーズは、英米でトップ10ヒットを連発するポップなヒット・メーカーであったが、その中でベックのギター・プレイは際立っており、特にフィード・バック奏法は後続のロック・ギタリスト達に大きな影響を与えてきた。
 66年6月にはベーシストとしてジミー・ペイジが加入、後にギターに転向しベックとのツイン・リードは当時としては斬新な手法であった。
 しかし、"両雄並び立たず"のことわざ通り、さらに本来ブルース志向のベックはポップな方向性に嫌気がさし次第に活動に熱が入らなくなり、ついに66年末の脱退に至る。
 その後ヤードバーズはジミー・ペイジがイニシャティヴをとり、メンバー総入れ替えのニュー・ヤードバーズ〜レッド・ツェッペリンとして一世を風靡するが、80年ドラマー、ジョン・ボーナムの死によって終焉を迎えた。

 脱退後のベックは、ディスコティックなどで細々とプレイし再起を賭けるが、同じくくすぶっていたヴォーカリスト、ロッド・スチュワートとの出会いが彼らの運命を変えて行った〜第1期ジェフ・ベック・グループの誕生である。
 ロッドの他にはロン・ウッド、ミッキー・ウォーラーをメンバーに、さらにゲストでキース・ムーン(ザ・フー)、ジョン・ポール・ジョーンズ(のちにレッド・ツェッペリン)、ニッキー・ホプキンス(ストーンズのサポート・キーボーディスト)らを迎えて制作されたファースト・アルバム『トゥルース』は、まさに力と力のぶつけ合い〜ベックのギターとロッドのヴォーカルが全く遠慮することなく絡み合い、他のパートもそれに負けじと応戦する。もちろんベックが事実上リーダーなのであるが、誰がリーダーなのかわからないほど各々が高いテンションで迫ってくる。かといって決して自己主張に終始することなく、きっちりしたバンド・サウンドを保っている。これはベックおよびプロデューサーであるミッキー・モストの手腕であろう。
 次作『ベック・オラ』では「監獄ロック」のカヴァーをプレイするなど音楽的広がりも見られたが、サウンドは幾分控えめになり結局ここでもベックとロッドの"両雄"並び立たずでウッドストックの出演目前に解散してしまう。

 ベックは以前から興味を抱いていたヴァニラ・ファッジのカーマイン・アピス、ティム・ボガートと共に新グループを結成しようと試み数回セッション等も行なったが、直後にベックが交通事故に遭い、加えてレコード会社とのトラブルもあってこの計画は暗礁に乗り上げてしまった。
 2年間のブランクを経て、ベックはコージー・パウエル、マックス・ミドルトンらと第2期ジェフ・ベック・グループを結成、『ラフ&レディー』『ジェフ・ベック・グループ』の2作を発表した。パワフルでファンキーなサウンドは大変聴き応えがあったが、やはりヴァニラ・ファッジのイメージが頭の中に大きく残っていたせいかカーマイン、ティムとの新グループを結成すべく72年夏に解散してしまう。

 念願の新グループ"ベック、ボガート&アピス"を結成したベックは73年アルバム『ベック、ボガート&アピス』を発表、クリームをも上回ると当時評されたロック・トリオはセールス面でも成功を収めるが、「このバンドでやりたい事はすべてやり尽くした。」とばかり次作『ライヴ・イン・ジャパン』をリリースした後あっさりと解散してしまうのであった。ベックには「人間の声と電気楽器の調和は不可能」との考えがあったようで、このことがバンド活動を行なう上でのジレンマとして常につきまとっていたのであろう。

 意を決したベックは、オール・インストゥルメンタルというほとんど前例のないロック・アルバムの制作に着手、完成したのが75年に発表された『ブロウ・バイ・ブロウ〜ギター殺人者の凱旋』である。
 本作にはビートルズの「シーズ・ア・ウーマン」、スティーヴィー・ワンダーの「哀しみの恋人達」「セロニアス」といったカヴァーも収録されているが、今なおベックの代表作として名高い「スキャッターブレイン」「フリーウェイ・ジャム」も収録されており、ロック・インストゥルメンタル、そしてベックの最高傑作として評価するファンも多い。ビートルズを長年手がけてきた辣腕プロデューサー、ジョージ・マーティンの仕事ぶりも際立っており、ベックの素晴らしい部分を余す所なく引き出しているのには脱帽である。

 しかし、これで驚いてはいけない。翌年にはさらにパワーアップしたインストゥルメンタル・アルバムを発表してくれるのだ…それが今回紹介する『ワイアード』である。
 24年前、私が高校2年の時、初めて針を落とした時の衝撃は今でも鮮明に覚えている。オープニング「レッド・ブーツ」のタイトかつソリッドなベックのギターに完全にノック・アウトされてしまった。このアルバムに関してはいくら形容詞を並べ立てても言葉で説明するのは邪道と思われるので、とにかく一度聴いていただきたい…といってこれで終わる訳にはいかないので参加アーティストおよび楽曲について簡単に説明しておく。
 第2期ジェフ・ベック・グループの頃からフュージョン(当時は"クロスオーヴァー"と呼ばれていた)色が見え始めていたが、本作のメンバーはそのジャンルのエキスパートによって固められている。第2期からの僚友マックス・ミドルトン、前作からのリチャード・ベイリーのほか、ヤン・ハマー、ナラダ・マイケル・ウォルデンらがカチッとしたサウンドを作り上げている。本作もジョージ・マーティン(一部ヤン・ハマー)のプロデュース。不思議な事にベック自身が書いた曲は一曲も収録されておらず、チャールズ・ミンガスの「グッバイ・ポーク・パイハット」以外はすべて参加メンバーのペンによる作品である。それゆえベックはバックを信頼しきって"ギタリスト"に徹し、思う存分のプレイを繰り広げている。これが唯一無比の傑作『ワイアード』を完成に至らしめたのであろう。
 翌年にはヤン・ハマー・グループとのライヴ・アルバム『ライヴ・ワイヤー』を発表、この頃のベックは非常に充実している様子が随所に覗え、次作への期待も高まる一方であった。

 しかし、同じメンバーでは2枚までしかオリジナル・アルバムを作らないという"伝説"はここでも生きており、その後のインターバルは長くなる一方であった。
 当時のディスコ、テクノブームを感じさせる作風のアルバム『ゼア・アンド・バック』を80年に発表した後、約5年間はセッション中心の活動に入る。

 85年には共同プロデューサーとしてナイル・ロジャースとアーサー・ベイカー、そして16年ぶりにロッド・スチュワートをヴォーカルに迎えてアルバム『フラッシュ』を発表、意表をついた組み合わせで世間をアッと言わせた。シングル・カットされた「ピープル・ゲット・レディー」はロッド本人が出演するクルマのCMでも使用されていたので、ご存知の方も多いかと思う。

 89年には新たなるパートナー、テリー・ボジオと旧友トニー・ハイマスとを迎えて制作したアルバム『ギター・ショップ』を発表、グラミー賞の最優秀ロック・インストゥルメンタル賞を受賞し久々に"ベック健在なり!"をアピールしてくれた。
 93年には『フランキーズ・ハウス』『クレイジー・レッグス』と2枚の企画アルバムを立て続けに発表、いつもとは違った楽しいプレイを披露してくれたが、オリジナル・アルバムを心待ちにしているファンにとっては少し物足りなさが残ったであろう。

 だが、ベックは期待に応えてくれた。20年来のグッド・パートナー、トニー・ハイマスとの共同プロデュスーで99年春、何と10年ぶりのオリジナル・アルバム『フー・エルス!』を引っさげて来日公演まで行なってくれたのだ。私は残念ながら都合がつかず行けなかったが、雑誌のレポなどによると中年のファンと若手のギター・キッズが一体となってコンサートを大いに盛り上げてくれたそうである。あー行きたかった…。

 ルックスは昔からほとんど変わらなくとも、今のベック・サウンドに昔の面影はあまり感じられない。それだけ進化しつづけているのだ。その"進化"の起爆剤となった24年前の『ワイアード』…ぜひ若いロック・ファンにも聴いていただきたい。21世紀に残る超名盤である!

(中野 亮)