金田明彦さん

新冠へのメツセジ
本当の音は誰が作るのか
金田明彦


金田明彦さん写真

1994.5.14 於新冠町町民センター
第1回金田式DCアンプ製作会・講演&試聴会時の筆者

私はクラシック音楽の中でもとりわけオーケストラの曲が好きです.オーケストラを聴いていると,まるでタイムスリップでもしたように時空を越えて別世界を体験できるからです.私が初めてオーケストラを聴いたのは小学校2年の頃,N響の演奏するビゼーの「アルルの女」でした.その時の音は今でも耳から離れません.しかしオーケトラが好きになったのはもっと前でした.小学校1年の頃,家にあった手回し蓄音機で聴いたSPレコードで,やはりピゼーの「カルメン組曲」でした.まるで悪魔に魂を奪われたように何度も何度も聴いたものです.マーラーが好きになったのはずっと後になってからの事です.「世の中にこんなにすごい曲があったのか,音楽と言うよりは宇宙そのものではないか.」と音楽観が変わる程のショックを受けたのは「交響曲第2番復活」でした.あまりにも沈痛な気持ちになるので滅多に聴けないのが「大地の歌」です.そしてマーラーを自宅に再現するために生まれたのがDCアンプです.レコ一ドの音は生の音には到底かないません.しかしレコードからは,時空を越えて過去の名演奏が再現できます.これは人類の遺産とも言えるでしょう,未知の曲に出合い,人生観さえ変わる事もあります.聴く度に新しい何かが発見できます.繰り返して聴くうちに,その音楽の本質を理解できるようにもなります.これは生の演奏にはない,レコードだけが持っている利点であり,魅力です.では,そのレコードに記録されている音楽を,果たして何人の人が忠実に再現しているでしょうか.同じレコードでも,オーディオ装置によってまるで違う演奏のように音が変わります.しかしオーディオ装置の音をあまり気にしない人の方が多いのです.意外な事に演奏者でオーディオの音を気にする人は非常に少ないようです.音楽を聴くのであって,音を聴くのではない.聞こえない音は自分で想像して聴く.と言う人もいます.しかし聞こえない音を想像するのでは作曲や編曲と同じであり,本当の音楽を歪めて聴いている事になります.装置が悪ければレコードに入っているはずの音も失われ,演奏も貧弱に聞こえます.100人のオーケストラが50人も欠席するような音にもなります.これでは心を込めて演奏した演奏者に失礼です.間違った解釈をする恐れがあるからです.本当の演奏を聞けないのでは聴く人にとっても不幸せな事です.レコード音楽を聴く人が幸せになるためにも,オーディオ装置の研究開発が大事な事です.しかし残念な事に音響学者でオーディオに真剣に取り組んでいる人は少ないようです.学会では芸術的な音を対称にする事は難しく,全て目に見えるデータにしないと議論ができないのです.しかし芸術をデータにはできません.さて現在,性能が飛躍的に良くなり,コストは逆に下がる一方なのがパソコンです.なにしろ半年前の製品でさえ古いのですから.パソコンは誰でも客観的に性能が判断できるからです.テレビもそうです.映像に対する判断は人によってあまり差がありません.一方,音に対する判断は人によって相当違います.物理的に同じ音を聴いても感じ方は人それぞれ違います.耳は目ほど客観性が無いのでしょうか.しかしちょっと工夫をすれば音でも客観的な判断ができます.例えば同じレコードをかけて,Aのアンプでは10種類の楽器の音が同時に聞こえたとしましよう.Bのアンプでは15種類の楽器が同時に聞こえたとします.アンプはレコードに入っている音を消し去る事はできますが,入っていない音を出す事はできません.だからAのアンプは5種類の楽音を失っていると判断できます.この場合明らかにBのアンプが良いアンプです.低音楽器,特にコントラバスやバスドラムの音は失われがちです.プラスが朗々と鳴っているときの弦楽器の音も消えることが多いのです.しかし作曲者や演奏者はその音楽に必要だからこそ,その音を鳴らしているのです..いかに多くの音を再現するか.こう考えるだけでアンプの正しい判定ができるのです.他にも客観的な判定方法が工夫次第でいろいろ考えられます.最も大事な事は,音の判定者が自分の好きな音楽を持っており,その音楽の再現に情熱を燃やしている事です.メーカー製品を悪く言うつもりは毛頭ありません.われわれアマチヤアが全てを自作できるわけではないからです.しかしメーカー製品ではなかなか本当に良い音を再現するのが難しい事も想像できるでしょう.物を作る目的が違うからです.まず売れる事が第1目的です.当たり前の事です.自作できるものはできるだけ作りましよう.最も自作しやすいのがアンプです.アンプ用のパーツならいろいろな物が発売されております.プレーアやスピーカのパーツでは何処に行っても手に入りません.まず基礎的なテクニックをマスターし,その上でこつこつと自分の夢を育てていきましよう.音楽を再現するのにオーディオ装置の個性的な音はじゃまになります.しかし手作りのオーディオ装置にはまるで製作者の魂が宿っているように,その人の個性と人生がにじみ出て来ます.その人でなければ出せないような音楽再現もできるのです.

「本文は、金田先生のプリントアウトされた寄稿原文を「ウイン・リーダープロ_5」で読み込みテキスト変換しました。」 1994.8.25発刊 (CopyRight)DC flash1号より抜粋


金田明彦先生
A&Vフェスタ2004で久しぶりに金田先生にお会いしました。
 杉山浩一さんからのメールに添付の写真です。


2001.03.23 1版

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