拝啓
 1904年イギリスのJ.A.フレミングによって発明された私は、一時皆の前から消えかかった。最近、時代に逆行したかのように台頭し始めた。良いものが消滅の途をたどるということは、私に限ったことではない。不思議なことであるが、このような自然の法則でもあるのだろうか。それは47年にアメリカで小型Trが発明されたころから徐々に姿を消し、現在、国内では生産されていない。
 私の内部は小宇宙だ。 (= 0.000001mmHg 程度の真空)
 私は、動作するたびに、コールドスタート→冷えた状態からどんどんと温度が上昇し高温(250度)になるから、このためのストレス(劣化)は相当なものだ。できれば、一度動作させたら数時間はそのままにしておいて欲しいものだといつも思っている。高温で動作させておいた方が劣化すると思っている輩も多く、こまめに火を入れたり切ったりするのはご免こうむりたい。ただ、少し風を送っていただくことは、延命措置としては効果はある。そんな私は、ものすごくタフであることも案外と知られていない。そして、急には倒れたりしない。過大な入力に対しては徐々に徐々に、知らず知らずに出力が飽和という形で限界を提示していく。そして聴覚にて異常と聴こえるころには相当疲れている。この辺のところは、微妙ですが早めに察知していただき過大な使用は止めていただくことを切望する。
 ヒューマンなところもあり、年とともに老化が進むのである。エミッション低下→エミゲンと呼ばれるものがそれである。
 私が1950〜60年に輩出した傑作(カッティングマシンをドライブしたパワーアンプは807真空管)を、皆は心行くまで堪能しているはずだ。球で録音した音は球で再現して欲しい。できれば私と同種のものを用いて再現して欲しいと思っている。
                                                                          敬具
真空管パワーアンプ 愛用者 各位
                                               真空管 代ph7


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2001.09.16 1版