レコードに町おこしの夢 ◇21世紀への遺産、世界から収集目指す◇
LPrecord

 『レ・コード(RE・CORD)』のREはリターン(RETURN)、リメンバー(REMEMBER)、リフレッシュ(REFLESH)などを意味し.CORDはラテン語で心。
 『レ・コード』は、心の再生、やさしさ、ゆとり、やすらぎといった広い意味を含んでまちの個性となり、それを象徴するのが、20世紀の音と調べを追体験できる『レ・コード館』。
 膨大なレコード盤のコレクションやレコードに関わる希少な文化遺産の数々、そしてぬくもりあるレコードの音が訪れる人を包みます。


承転結  1990.12.08(sat) 19:00〜3:30 出会い

 「・・・とある夜更けに、レコード(Jazz)を聴きながら、酒(Bourbon)を飲んでいたら・・・」というフレーズで始まる町づくり序曲。”一枚のレコード”の誕生。
この出会いは、偶然としか言いようの無い集まりから・・・
当時、職場を一緒にしていた企画課のds君が私(ph7に誘いがあり、彼の自宅でレコードを聴こうとのこと。
酒をぶら下げ出かけると、病院のyw院長、消防のms君がいた。一瞬、私には場違いだったか?と・・・普段、付き合いはなかったが、同じ匂いのする面々は、自然と音楽談義になり、ふるさと創生資金はどうしたとか、レコードはプレスされなくなるとかの話題から、創生資金1億円でレコードを集めたらどうなるのかということになった。当夜は、聴いたレコードはds君の好きなリーモーガン。酒も入って、夢ごこちで語ったことが、それからわずか数ヶ月で国の過疎地域活性化モデル事業の指定を受けることとなった。当時の本モデル事業の指定は話題性も含めインパクト大であり、この指定をうけた団体の地域振興に関するプログラムは確実に進展していた。
※当時、私は企画課企画係長(H2年4月to5年3月)の職責にあって、このプロジェクトを進めるにあたり最適任であった。

転結  このように
 そもそもことの起こりは、レコードや音楽が大好きな町内の四人が、とある夜更けに酒を飲んでジャズを聞いていた。誰ともなしに「文化のかおり高い町が好きだなーあ。」と続けて、「ところで、我が町のふるさと創生資金の一億円はどうなったのか?」というところから始まった。どこでもやっているような町民海外研修や産業の振興という光の部分も結構だが、影としての地域文化をどうするんだろうなどと話していた。平成2年の暮れも押し迫った頃のことである。
 レコードコンサートという言葉も聞かれなくなったこの頃であるが、個人の器材を持ち寄って月例のコンサート活動を行っていた四人の酒と音楽を楽しんでいたとき生まれた発想。これが今、町を動かしている。
 それは、レコードをこのままにしておくと散逸してしまい貴重な歴史的価値のある音楽文化が間違いなく消滅する。今、消え去ろうとしているレコードを世界的規模で集めて町づくりができたなら、きっと文化の香り高い町の創造ができる。21世紀に生きるこどもたちのためにも素晴らしいことであると考えた。
 そのときは気がつかなかったのだろうが、この夢が大きく膨らみ、自分たちが町おこしのコアとして動くとは思ってもいなかっただろう。
 この壮大な事業の閃きの中心となったグループの名称は”一枚のレコード”という。月例レコードコンサートが定着すると、町内の色々なグループから是非地域に出張して来てくれなかという誘いが多くなった。これを「出前コンサート」と称した。ユニークな音楽の出前である。あるいは、町内の青年グループなどは、自分の聴きたいレコードは自分でなんとかかき集めるからといって、器材とノウハウの提供を願い出るものもいる。
 地元の営林署は、茸など秋の味覚と紅葉が映える新冠湖をバックに野外コンサートを企画。市街から数十キロも山奥へ機材を運び込んで、北海道ならではの自然いっぱいの音楽会が実現した。別のグループではさらに音と味覚に芸術的視覚が加わり、レコードとワインと絵画の夕べを企画するなど色々な広がりを見せている。

 
   
結   1997.06.08(sun) レ・コード館オープン




 
承転   100万枚のレコード
もうじき達成か(2016.02.24)




 ジャズとバーボン
 いつもの酒の席
 あれから10有余年
 僕らの予定では今頃は
 レコードはプレスされないはずだった
 どうしてどうして
 しぶとく生きている
 中古のレコードもまだ流通している
 このぶんでは21世紀も
 期待できるかも
 (2001.05.25)


日経新聞「本文」
 夢はたった一枚のレコードから始まった。一枚のレコードに夢を託したら、いろいろな人が北海道・日高地方のわが古里、新冠(にいかっぷ)に目を向けてくれた。
 ことの起こりは「一枚のレコード」を自称するグループの雑談である。町内のレコード音楽好き四人が、とある夜更けに酒を飲んでジャスを聴いていた。だれかが「文化の香り高い町が好きだなあ」と言ったのがきっかけで、話はわが町のふるさと創生一億円はいったいどうなったのかに集中した。酒を飲んでの議論は責任がなくて、しかも次々に飛躍する。どこでもやっているような人づくりや産業の振輿もけっこうだが、地域文化をどうするんだろうなどと話していた。壮大な考えがひらめいたのは、 そんな時だ。「今聴いているこのレコードもそろそろなくなるそうだ。レコードを世界的な規模で集めれはきっとすごいことになるぞ」。申し合わせたように、四人の心に同じ考えが浮かび、どんどん膨らみ始めた。

青春の思い出が凝縮
 今やCDの時代。聴かなくなったものの、若いころ買い集めたレコードを捨てるに捨てられず、押し入れや部屋の片隅に積み上けている人は多いに違いない。その聴かれなくなったレコードを日本中から集めて、一大ライブラリーを作ろう。そして、定員二百人くらいの小さな再生専用ホールを建て、世界の名器といわれる蓄音機やスピーカーで奏でよう。
 夢を語っている時は膨らませることだけに一生懸命になるものだ。その時は、まさかわがままな私たちの考えが町おこしの核になるとは思ってもいなかった。
 百年以上も続いた日本のレコード文化はもうすぐ幕を閉じる。国内ではプレスされなくなるのだ。だが、一方ではレコードの音楽性や可能性を十分探究しないきま、CDに移行するのは文化や技術論ではなく、経済論でかたをつけるもので非常に残念だ、と考える人も多い。もちろん私たちも同意見だ。
 いや、そんな難しい話ではない。青春の日の甘酸っぱくて、まぶしい記憶が染み込んだレコードヘの愛着、小遣いをやりくりして買った音盤からたちのぼったニューヨークのにおいや、バッハの高貴……。そんな思い出に人々が共鳴し、「レコード」はあっという間に町おこし構想の中心的な存在になり、わが新冠町は「レコード音楽による町づくり」を掲げることになった。
 レコードを単なるアンティークディスクとしてではなく、二十世紀の文化遺産として収集という計画だ。新冠でレコードはレ・コードとして、特別の意味を持つことになる。レはrelaxなどRE(再ぴ、新たな等の意味)から始まるさまさまな言葉を意味し、コードCor(d)はラテン語の心をさす。つまり、レ・コードは「レの心、リラックスの心、リメンパーの心などを意味するメッセージを込めて」という造語だ。
 消滅しようとしているレコード文化を二十一世紀に伝承する機会は今しかない。この恵まれ機会を見失うことなく有効に活用することが発想し、企画を進めているわがまちに課せられた責務のように思えてならない。
 このユニークな文化戦略は必ずや新しい地方文化の波になるだろう。そんな願いをこめて、日高山脈と新冠川・そして太平洋をバックにサラブレッド・優駿が、レコードのニューウエーブを駆けるイメージを推進マークにした。

お礼はジャガイモで
 あらゆるジャンルのものを数限りなく集めて、町をレコードのメッカにするという構想は、次第に形を整えた。町の担当者から北海道庁へと話は進み、とうとう平成三年度国土庁過疎地域活性化推進モデル事業の一つに指定された。
 だが、問題はどうやってレコードを集めるか。愛着ある個人コレクションを寄贈してくれる人があるだろうか。そこで委託制度を考えた。個人所蔵のレコードを未来への遺産として、最良の条件でお預かりする。配当はわがまち自慢の産品、ジャガイモとメロンというわけだ。
 収集の第一歩は身近な道内のラジオ局。担当者に手持ちのレコードを寄贈してほしいと話を持ち込んだ。するとタイミングよく、CDにとって代わられ、おはらいばこになる寸前のLPがあるという。一万五千枚が瞬く間に集まった。幸先良いスタートに、このぶんなら百万枚も夢ではなさそうだと、レコードに埋まりそうな快感に身震いした。
 集まり始めると、今度は整理する方法を検討しなけれはならなくなった。全国のラジオ局でもコンピューターを使って整理しているところはまだ少ないだろう。新冠はこれからレコードで町をおこそうとしているのだから、収集したレコードは効率よく検索できなけれはならない。将来的には、コンピューターを使った世界で最大規模のレコードデータベースを構築しようとはりきっている。

様々なコンサート開催
 町の中でもさまさまなグループが活動し始めた。「一枚のレコード」には、今度はぜひわが地域で月例レコードコンサートを、と声がかかりだした。出前コンサートである。町内の青年グループは聴きたいレコードは自分たちでなんとかかき集めるからと、機器とノウハウの提供を求めてきた。
 地元の営林署は紅葉が映える新冠湖をバックに、キノコなど秋の味覚としゃれた音楽で、残り少ない秋の一日を満喫しようという野外コンサートを企画した。市街地から数十キロも山奥に機材を運ぴこんで、北海道ならではの自然いっぱいの音楽会が実現した。別のグループは音と味覚に芸術的視覚を加えて、レコードとワインと絵画のタベを企画した。こうして町民に楽しんでもらう機会がいっきに増え、今や新冠は「レコード音楽の町」といった雰囲気になってきた。
 新冠町は人口七干人弱の過疎の町だ。だが、このような小さな町にも世界に誇れる文化事業が誕生することは、若者のUターンが期待できる何かが生まれるのではなかろうか。町を離れて生活している入々の心の糧になるのではなかろうか。そして、わが町に思い出のつまったレコードを託してくれた人々には、もうひとつの故郷になるのではなかろうか。 (1991.11.4掲載-日本経済新聞-)

「本文は、印刷原文を「ウイン・リーダープロ_6」で読み込みテキスト変換しました。」

2001.04.06 1版

2017.05.25 報道記事追加



東京のF氏から日本経済新聞夕刊にレ・コード館のこと掲載されていましたとメールに以下の記事が添付されていました。ありがとうございます。
(記事利用させていただきます。) 引用については後述参照。



碧南市のY氏から中日新聞夕刊にも レ・コード館のこと掲載されていましたとメール。記事が添付されていました。ありがとうございます。
文化面ではある程度認知度があるようです。




    記事を「引用」して利用することは可能ですか 日本経済新聞Q&Aより
    http://support.nikkei.com/faq/show/3770?site_domain=nkreprint

回答 記事を引用する場合、以下の条件を満たしていなければなりません。
1.引用する必然性がある
2.質・量ともに、引用したい人の文章が「主」で、引用部分が「従」という主従関係がある
3.報道、研究、批評などの目的上必要な範囲内で、必要最小限度の利用である
4.修正したり歪曲したりせず原文のままで利用する
5.引用部分を「」(かぎカッコ)でくくるなど、明確に区別する
6.「〇年〇月〇日付 日本経済新聞朝刊」など、出所を明示する
――などです。


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